人類滅亡へ向かうパニックムービーである映画「ノストラダムスの大預言」…
本作品は反核団体の抗議を受けたことにより、ビデオとLDなどが発売中止となり、封印された映画の一つとなりました。
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大ヒット映画「人間革命」の翌年、田中友幸さん・舛田利雄さん・丹波哲郎さんのトリオが再び結集したのが「ノストラダムスの大予言」です。
プロデューサーの田中さんは、パニックムービー「日本沈没」(1973)を空前の大ヒットに導いてのりにのっていました。
その田中さんが、パニックムービー第二弾の素材として目をつけたのが、五島勉さんの大ベストセラー「ノストラダムスの大予言」です。
しかし、原作はたんに予言を解説しているだけで、ストーリーというものはありません。
これをどう映画にするというのでしょうか?
宗教がらみの「人間革命」もなんとか映像化してきた舛田監督ですが、この企画についてはさすがにできないと一度は断ったといいます。
映画にするにはドラマがないといけません。
ノストラダムスの予言通りに地球が破滅するところをただ見せてもドラマにならないので、人類減亡の予兆に怯える人々のストーリーを構成するしかないのです。
主演の丹波哲郎さんは、環境研究所の所長・西山良玄を演じます。
西山は公害撲滅に励む一方、ノストラダムスの予言も研究していて、一人娘のまり子(由美かおるさん)には人間が安心して子どもを産める時代ではないから「子どもはつくるな」と命じ…
冒頭から不吉なムードがただよいます。
その後は、ひたすら異常事態が頻発するという展開です。
夢の島で巨大ナメクジが大量発生したり、北九州の総合病院で奇形児の出生が増加したり、尼崎で骨が縮む奇病が流行したり、東京の地下鉄構内で未知の巨大植物が大発生したりします。
世界に目を向ければ、エジプトで砂漠に吹雪が舞い、熱帯の海は氷結します。
また、事故で成層圏のオゾンは破壊され、紫外線が地上に降り注ぎ、山火事やコンビナートが炎上、北極の氷が溶けて、大豪雨と大洪水が引き起こされます。
そして民衆は暴徒と化し、若者は集団自殺をはかります。
終末感が襲うなかで、まり子の妊娠が判明…
まり子、つまり由美かおるさんが浜辺で脱いで踊りだすシーンが唐突に入ります。
クライマックス。
核戦争や大地震の映像を流しながら、国会の壇上に立つ西山が人類滅亡の予言を読み上げます。
環境破壊やエネルギー資源の争奪戦を続けるかぎり、ノストラダムスの予言のように、人類は破滅の道を歩むと訴えるのです。
変わって壇上に上がったのは総理大臣(山村聡)。
総理の人類讃歌の大演説が長々と続いて映画は終わります。
さて、6億5000万円の制作費がつぎ込まれたこの大作。
なぜか当時の文部省推薦を受けて、1974年夏に公開され、大ヒットを記録しました。
しかし公開1週間後、思わぬところからクレームがついたのです。
この映画を観たある青年が2つのシーンに憤慨し、そのことを所属していた大阪反核団体の上層部に報告…
同団体は、2つのシーンが被爆者を怪物視していて反倫理的・差別的だとして、東宝に上映中止を求めて抗議しました。
東宝と同団体との抗議交渉は3回にわたって行われ(その間も上映は続けられる)、公開4ヶ月後の1974年12月、問題のシーン(1分5秒)のカットを条件に、上映中止だけはまぬがれました。
東宝は全国紙の朝刊に謝罪広告も掲載しました。
裏でこんな騒動もあったわけですが、映画は1974年度の邦画興行収入で2位を記録しています(1位は「日本沈没」)。
さて問題のシーンというのが、被爆して人食い人種と化したニューギニアの原住民の描写と、クライマックスの、核戦争後に頭の大きな異形となった新人類のイメージです。
このほかにも、表現的にはきわどい奇異な現象がならびます。
ただ、これらは意味もなく創造されているわけではありません。
科学者らから意見を聞いたうえで、科学的裏付けのもとに形づくられています。
映画的誇張もありますが、真面目に人頃の危機を訴えようとした結果であったのです。
もちろん制作サイドに差別的な意図などなかったはずです。
公開から10年以上が過ぎた1986年春。
問題のシーンをカットしたうえで、ビデオとLDの発売が告知されました。
しかし、結局発売は中止され、これまで一度もソフト化されていません。
突然の発売中止の背景には、公開時に猛烈な抗議を受けたショックをひきずっていて、新たな問題を引き起こしたくないという東宝社内の事情があったとみられています。
ということで現在、この映画を観ることは非常に難しいのです。
どうしても観たいなら、1980年11月のテレビ放映版(人食いシーンはカットされていない)の録画を探すか、海外で発売されているビデオやDVDを取り寄せるか、巷に出回っている海賊版を探すか、です。
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