傑作だった井筒和幸監督による映画、「ガキ帝国」…
とても有名な映画で未だに観たい、という人も多いのではないでしょうか。
制作はATG…
DVDでも視聴できます。
しかし実はこの作品、あることが理由で公開中止に追い込まれたのです。
舞台は1967年の大阪…
3人の悪ガキが、自由に遊びたい一心から、街を仕切る北神同盟のガキ達と大喧嘩をするという青春バイオレンス映画です。
時代設定は万博を控えた60年代後半ですが、 映像からは、80年代の不良少年たちの生々しい息づかいが伝わってきます。
元不良だったという島田紳助さんが主演を務め、仲間の少年役に当時の相方・松本竜介さん、それに存在感抜群の超方豪(ちょうばんほう)さんが脇を固めます。
エネルギーほとばしる3人の演技は鮮烈で、また、荒々しくも研ぎすまされた感性を随所にみせる井筒監督の演出も見事です。
「ガキ帝国」は1981年3月より関西で先行上映されました。
すると、その面白さを見逃さなかった大手映画会社がありました。
東映です。
東映は井筒監督を呼び出し、3000万円を用意しすぐに続編をつくらせます。
それが「ガキ帝国 悪れ戦争」なのです。
依頼日は6月4日。
公開日は9月12日。
今では考えられないスケジュールなのではないでしょうか。
驚くことに、当時はこんな調子で映画がつくられていたのです。
脚本家の西岡琢也さんは、続編「ガキ帝国 悪たれ戦争」のシナリオの初稿を1週間で書き上げました。
巧みに構成されたストーリーからは考えられない、神業に近い仕事ぶりです。
さらに、公開に先駆けて発行された小説版も1ヶ月で仕上げているのです。
撮影は7月から3週間半の日程ではじまりました。
主演は、「ガキ帝国」でヨコハマ映画祭新人賞を受賞し、その才能が発掘された超方豪さん。
東映は彼を主演に迎えました。
しかし、「超方豪」という朝鮮名では売れないのではないか、と考えて、「豪田遊」という日本名を用意します。
本人にとっては、本名に固執するか、名前を変えてでもメジャー主演を果たすか、苦渋の決断だったでしょうが、日本名での出演をのんでいます。
ストーリーは、ハンバーガー店のモスバーガーでバイトをしながら喧嘩の日々を送る不良高校生、良一(豪田遊)と辰則の話。
辰則は同居する兄の妻を犯そうとして、少年院送りに…
そこで首を吊って自殺してしまいます。
良一は旧友の光春と出会いますが、その彼もチンピラの渋沢との抗争で絶命…
駆けつけた良一は渋沢を殺してしまうのです。
そして良一は光春の女、安子と逃亡の旅に出ます。
血みどろになりながらの戦い、そこに豪田遊の鬼気迫る姿がありました。
若い命が無意味に消えていく…
前作よりも娯楽色とバイオレンス色が強い作品です。
また、公開は、村川透監督の「獣たちの熱い眠り」との併映でした。
「悪たれ戦争」は、もともと客入りが不安視されていた同作をフォローするために企画されていたのです。
無理な制作スケジュールもそのためだったのです。
蓋を開けてみると、続編を期待していたファンも多く評判は良いものでした。
ところが上映は3週間ほどで突然中止に追い込まれてしまいます。
原因はあるシーンにありました。
良一と辰則がアルバイトをしているモスバーガーでのシーンです。
店長と気が合わない良一が、あるときこう叫びます。
「この店のハンバーガーは猫の肉や!」
そして大きな石で店の窓ガラスを破壊…
店は閉店に追い込まれます。
当時は、モスバーガーがテリヤキバーガーのヒットからフランチャイズ店を全国に拡大していた時期です。
このシーンをたまたま観たどこかの店長が東京本社に報告…
モスバーガーは東映に猛烈に抗議します。
すると東映は係争することもなく、すぐに上映中止を決めたのです。
フィルムもすべて回収して廃棄処分。
その後、ソフト化もされていません。
たった一つのシーンのために、映画は幻と消えてしまったのです。
貴重なメジャー主演作を失った超方豪さんのその後を追ってみると、本来の名前で俳優活動を続けていました。
でも日本名でなければ当時の日本では売れなかったのか、映画やドラマの脇役での細々とした活動でした。
そして1997年12月9日、肺ガンでこの世を去ったのです。
41歳の若さでした。
豪田遊としての出演作は「ガキ帝国 悪たれ戦争」1本だけでした。
また「ガキ帝国」で輝いていたもう一人、松本竜介さんのその後もパッとしません。
1985年一の島田紳助さんとのコンビ解消後は、芸能界から遠ざかり職を転々としました。
そして2006年4月1日、脳内出血で倒れ死去。
さらに島田紳助さんは最後のテレビ出演となった「開運!なんでも鑑定団」の放送終了直後、暴力団関係者との「黒い交際」を理由に引退を宣言し、この日を以って芸能界を引退しています。
「ガキ帝国 悪たれ戦争」は観ることはできませんが、「ガキ帝国」で輝いた彼らの姿を見ると、胸が熱くなります。
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