「ビッグコミックスピリッツ」で1983年に漫画連載が始まり、日本にグルメブームを巻き起こした「美味しんぼ」…
食品の工業的大量生産が可能になり、見落とされがちになっていた食べ物の本当の「味」をテーマにすることに着目した漫画で、日本人の食に対する認識を変えたといっても過言ではないでしょう。
主人公の山岡士郎と、北大路魯山人がモデルとされる海原雄山との、「究極vs至高」親子対決を本筋として、食品添加物や遺伝子組み換え食品、反捕鯨団体への批判など、原作の雁屋哲氏による問題提起がふんだんに盛り込まれた作品なのです。
アニメ版は1998年から3年半、日本テレビ系で放送されました。
しかし、この作品はスポンサーありきのテレビには決して向かない作品でもあるのです。
そのため再放送時に欠番となったエピソードも少なくありません。
たとえば第15話「日本風カレー」…
この回では、肉を使わずにカレーを作ろうとするカレーショップを山岡が救う内容でした。
山岡が提案したのは、牛の骨髄を使ったカレーだったのです。
再放送が見送られたのは、当時、狂牛病が社会問題化していた影響なのでしょう。
同様に、食肉に関する表現で欠番となったのが、山岡が「黒豚には偽物が多く、エサには成長促進剤や抗生物質を入れる業者が多い」と発言した第20話「食卓の広がり」…
そして、栗田がブロイラーを「あんなの食べ物じゃない」と痛烈に批判した第25話「舌の記憶」です。
第27・28話「激闘鯨合戦」では、捕鯨問題を扱っており、米国が商業捕鯨に反対しながら、アラスカでは捕鯨が行われていることを批判する内容でした。
この回は第27回ギャラクシー賞の選奨を受賞した名作なのですが、なぜか欠番となっています。
そして、第123話「究極vs至高対決!!スパゲッティ」は、放射能汚染問題を扱っています。
作中には、「ヨーロッパの農作物がチェルノブイリ原発事故ですべて汚染されている」という表現があり、欠番となりました。
真偽は別として、もともと、雁屋氏は放射能汚染に過剰に問題意識を持っていたことがわかります。
現状となっては、この123話が最も再放送の難しいエピソードといえるでしょう。
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原作漫画の「美味しんぼ」が起こした2014年4月の炎上騒動は、雁屋氏の問題意識が勇み足となったものでした。
批判を受けたのは、「ビッグコミックスピリッツ」2014年5月12、19日合併号に掲載された第604話「福島の真実その22」です。
福島第一原発を取材した山岡はひどい疲労感におそわれ、原因不明の鼻血が出ます…
のちに、同行者にも同じ症状があることがわかり、前双葉町長の井戸川克隆氏が登場し、「福島では同じ症状の人が大勢いますよ。言わないだけです」と告げられるのでした。
これが「科学的根拠のない風評被害」にあたるとして、小学館に抗議が殺到…
双葉町も抗議文を提出し、当時の環境大臣・石原伸晃氏が、鼻血と原発事故の因果関係を否定する事態となったのです。
これを受けて、「ビッグコミックスピリッツ」編集部は「美味しんぼ」の一時休載を発表…
同年6月2日号で「福島の真実編」は終了しましたが、同シリーズはもともと、この号で終了する予定だったといいます。
結局、騒動を受けて休載という体は取っているものの、雁屋氏が非を認めたわけではない形で収束していることに驚かされます。
なにしろ作中では、多くの市販食品を添加物だらけの粗悪品と切り捨て、大手企業を敵に回しても、ものともしない姿勢なのです。
作品内容に抗議声明を出した業界団体は少なくありませんが、そのほとんどに雁屋氏は屈していません…
食を扱う人気連載を長年続けてきた胆力は伊達ではないのです。
一方で、そんな雁屋氏が珍しく否を認めて、単行本未収録となったエピソードがあります。
「ビッグコミックスピリッツ」2000年10月2日号に掲載された第469話「はじめての卵」です。
山岡夫妻が、赤ん坊の離乳食として、ハチミツで味付けしたパン粥と、半熟卵の黄身を与えるシーンがあるのですが、ハチミツと半熟卵は、当時の厚生省が赤ん坊に与えてはいけないと勧告している食品だったのです。
ハチミツはボツリヌス菌の芽胞が含まれていることがあり、抵抗力のない赤ん坊には不適…
また、半熟卵はアレルギーの原因となる他、サルモネラ菌による食中毒の危険があるといいます。
翌々週の号には、編集部と雁屋氏の謝罪文が掲載されました。
文中で雁屋氏は、ハチミツと半熟卵は20年前、自身の子供に与えた離乳食であったと語っています。
当時は、まだこれらに対する厚生省の勧告がなかったため、認識していなかったとのことだったのです。
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