かわぐちかいじ氏による漫画「沈黙の艦隊」…
本作は、潜水艦戦を描いた戦記物に、核戦争や国際政治等の問題提起を絡ませ、各方面から注目を集めました。
そんな社会派作品である本作が、ある写真集をそのままトレースして漫画に掲載し、著作権侵害として訴えられたのをご存知でしょうか。
事の真相はこの通り。
1991年11月、あるカメラマンが、「モーニング」連載の人気漫画「沈黙の艦隊」に対して自分の写真集を無断でトレース(模写)しているとして著作権法違反で訴えてきたのです。
そのカメラマンは柴田三雄氏(故人)、「nonーno」の専属カメラマンから、なぜか軍事、特に兵器専門に転身した異色のカメラマンで、戦闘機のコックピットから外の機体を撮影する迫力のある撮影には定評がありました。
リムパックなど日米の軍事演習を何度も取材してきた軍事写真の第一人者なのです。
かわぐちかいじ氏の出世作かつ大ヒット作となった「沈黙の艦隊」は、自衛隊、旧ソ連軍、アメリカ海軍の艦船が多数出てきます。
軍事系の写真集も資料にしており、そのうち、カット約50点が柴田三雄氏の写真集をそのままトレースして漫画に掲載されていたのです。
柴田三雄氏は、軍艦や戦闘機などの写真を雑誌に販売しており、講談社の「週刊現代」や「FRIDAY」はグラビアで何度も扱っています。
丸ごとトレースするなら写真購入と同じ、支払い義務が生じるという主張は別段、間違っていません。
結局、講談社とかわぐちかいじ氏は連名で謝罪文を掲載、損害賠償を含めた和解金の支払いと、トレースした箇所にはクレジットを入れ、使用料を払うことで決着しました。
柴田氏の主張を否定すれば、かわぐちかいじ氏が描いた絵を他の漫画家がそのままトレースしても問題ないことになります。
自らの著作権の放棄に繋がるのですから、当たり前の話でしょう。
問題は、この騒動が起こるまで、トレースが公然の秘密で黙認されてきたことにあります。
事実、この「トレース行為」は、何度も騒ぎになっており、「ちはやふる」などで人気の末次由紀氏は、井上雄彦氏の「SLAM DUNK」のシーンをトレースしたとして2年の休業を余儀なくされたほどです。
いまもって、違法トレースに「沈黙」している漫画家は少なくないのかもしれません。
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