映画

フランス映画「密告」はなぜ上映禁止の不運に巻き込まれたのか?!





アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督によるフランス映画「密告」…

サスペンスの巨匠ヒッチコックが唯一その才能を嫉妬したといわれるアンリ=ジョルジュ・クルーゾー。
「悪魔のような女」などサスペンスの名作を生み出したフランスの監督です。

ヒッチコックの代表作「サイコ」も「悪魔のような女」に刺激されて生まれたといわれています。

そのクルーゾー監督が、戦中に撮った隠れた傑作が「密告」(1943)なのです。
この作品、戦中の複雑な時代背景もあって、上映禁止の不運に巻き込まれたのです…

この作品は実際に起きた事件がもとになっています。
1917〜1922年にかけてフランス中部の町チュールで起き、全国紙をにぎわした「チュール事件」です。

それは、町のあちこちに投げ入れられた匿名の手紙がもたらした騒動で、アパートや街路、教会などいたるところで計110通もの手紙が次々に見つかりました。
そこにはプライベートな不倫の情報などが記されていたため、悪い噂が拡散し、住民は互いの目を警戒するようになったのです。

捜査で特定された犯人の一人は、34歳の独身女性でした。
彼女は好意を持つ男性が結婚すると知ってショックを受け、匿名で手紙を書いたらしいのです。
同居する母親も加担していたとされています。

映画「密告」でも、匿名の怪文書が平和な町の様子を一変させます。

この作品の内容は以下の通り…

田舎町サン・ロバンで、「カラス」とサインされた怪文書があちこちで見つかります(映画の原題は『Le Corbeau(カラス)」)。
そこには、ジェルマン医師が医長ヴォルゼの若妻ローラと密通していると告発されていました。

独身のジェルマンは人々から白い目で見られ、「ジェルマンは嘘つきで堕胎医」という噂が広まり、心を痛めます。
やがて「カラス」のターゲットは広がり、不治の病気だと告げられたジェルマンの患者が自殺するという悲劇が起きてしまうのです。

「カラス」は一体だれなのか?

人々はローラの姉で看護師のマリーを疑い病院から追放しますが、マリー逮捕後も「カラス」の投書はつづきます。
犯人をつきとめようと奔走するジェルマンは、やがて意外な人物につきあたります…

平凡な町の住人が「カラス」の投書におびえ、原因を生み出したジェルマンを追放しようとします。
また、醜悪な看護師マリーを「カラス」と決めつけて群衆が追いつめるのです。
中世の魔女狩りを紡続とさせる不気味なシーンです。

ジェルマンは、周囲の親しい女性たちさえも疑うようになるのですが、観客のもやもやをかき消す回答は、鋭く終わるラストに待っています。

さて、「密告」は、1943年、ドイツ占領下のフランスで撮られています。

この時代、ドイツ資本の映画制作会社「コンティネンタル・フィルム(Continental-Films)」によって何本かのフランス映画が制作されていますが、「密告」もその一本でした。
映画の冒頭、クレジットタイトルの前には社名の「C」のロゴが確認できます。

ドイツ資本の映画を作った時点で、クルーゾーに対しては「ナチスと手を組んだ」として中傷の声があがりましたが、それ以上に映画の内容が衝撃を与えました。

住人たちが群れをなし、ヒステリックに無実の人間を容疑者に祭り上げていきます。
これが「フランスのどこにでもある小さな町」の人々と説明されているのです。

しかも、映画は救いようのないほど暗く、不倫や堕胎といった話題で埋め尽くされています。
当時としてはかなり不道徳な作品だったはずです。

公開されたとき、フランスの観客は一斉にクルーゾーを拒否しました。

批評家らは、「ナチスのプロパガンダ映画ではないか」、「ヒトラーの「我が闘争』の影響のもとに描かれている」などと厳しい言葉を並べ立てました。
また、レジスタンスやコミュニストらは、「ナチスの手下でフランス国民を中傷している」と痛列烈に批判したのです。

結果、クルーゾーは監督業を剥奪され、映画も上映禁止となってしまうのです。

ただ、この映画は「ヒステリックなフランス人」というマイナスイメージによってフランス人を中傷することを狙ったものでは決してありません。
恐怖や不信感が広まることでいかに群衆が豹変するのかという、人間社会の普遍的な危うさを描いているのでしょう。

しかし、占領下で夢屈した感情を抱えていた当時のフランス人はそんな冷静な判断ができず、一斉に反発したのです。

「密告」の上映禁止と監督業剥奪の措置が解かれたのは、戦後の1947年のこと…
再びカメラを手にしたクルーゾーは、人間社会に潜む恐怖をより大胆に映し出していくのです。




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