世間に「差別用語」という言葉が広まり、それまで普通に使われていた言葉までもが「差別」を意図していると槍玉に挙げられるようになったのは1970年代の半ば過ぎのことでした。
そのあおりを食って放送が自粛されるようになった作品は少なくありません。
傑作時代劇「啞侍鬼一法眼(おしざむらいいちほうがん)」もその一つ…
原作・五社英雄氏、主演・若山富三郎氏、制作・勝プロダクションの作品なのです。
現在は「差別用語」であるとしてあまり使われなくなった「啞(おし)」という言葉は、障がいによリ言葉が話せない人を指します。
この映画では長崎でイスパニアの剣士に両親と許嫁(いいなずけ)を殺され、自らも喉(のど)を裂かれて啞となった主人公が、賞金稼ぎに身をやつしながら復讐を遂げるまでが描かれているのです。
設定上、描かれているのは手話のない時代であり、意思の疎通は簡単な身振りと、わずかな筆談だけで行われていました。
それがかえって主人公の存在感と迫力を高めているのです。
この作品は時代劇の金字塔「座頭市」の延長線上にありました…
盲目の剣士である市が悪党を斬り倒す痛快さと哀愁を帯びた傑作ですが、この主人公の市を演じたのが、若山富三郎氏の実弟である勝新太郎氏だったのです。
「啞侍鬼一法眼」の制作をした勝プロダクションの社長なのです。
つまり、弟の勝新が盲(めくら)で当たったから兄の若山氏は啞で…
という商業的な戦略だったのです。
さて、この「鬼一法眼」ですが、原題のままでは放送ができません。
啞という言葉が放送コードに引っ掛かるのです。
そこで現在は、オープニングタイトルに画像処理を加えて啞侍を取り、「鬼一法眼」という題名にした上で、DVD発売とCSでの再放送がされています。
作品の内容は障がい者を卑しむものではまったくないのですが、原題の「啞侍鬼一法眼」が復活することは現在では難しい状況なのです。
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